伊勢神宮の「式年遷宮」と聞くと、
「20年に一度、神様のお住まいを新しくする行事」
というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。
私も、以前はそのくらいの知識しかありませんでした。
でも、神社が好きで、伊勢神宮のことを調べているうちに、だんだん気になってきたのです。
「いったい、どうやって20年に一度の遷宮を準備しているの?」
調べてみると、これが想像以上でした。
「えっ、そこまでやるの?」
思わずそう言いたくなるほど、式年遷宮は壮大な仕組みの中で行われているのです。
しかも、現在進んでいる第63回式年遷宮は、令和15年(2033年)秋の「遷御の儀」に向けて、令和7年(2025年)から関連する祭りや行事が始まっています。
「なぜ20年に一度なの?」
「なぜ、わざわざ新しく造り替えるの?」
「そこには、どんな人たちが関わっているの?」
神社が好きな私自身も、知れば知るほど「そうだったのか」と驚くことばかりでした。
今回は、そんな伊勢神宮の「式年遷宮」について、私自身が興味を持って調べたことを、できるだけわかりやすくまとめてみたいと思います。
伊勢神宮がなぜ特別な場所として、長い年月にわたって人々の心を惹きつけてきたのか、その理由が少し見えてくるかもしれません。
はじめに「20年に一度」の裏にある、もっと奥深い物語
20年に一度、新しくするのは「建物」だけではない
まず驚いたのが、式年遷宮は単純な「社殿の建て替え」ではないということ。
伊勢神宮では、内宮・外宮の正宮をはじめ、14の別宮や宇治橋なども造り替えられます。
さらに、社殿だけではありません。
神様がお使いになる御装束や神宝も新しく調製されます。
つまり、神様をお迎えするための環境そのものを、古くからの作法に従って新しく整えるのです。 ([伊勢神宮])
式年遷宮とは神様のお引っ越しであり日本人の心のリレー
式年遷宮とは、ひとことで言えば「20年に一度、神様のお社を新しく建て替え、御神体をそちらへお遷しする」という、伊勢神宮でもっとも大切な行事です。
なぜこのようなことを1300年以上も続けてきたのか。
その始まりは第40代・天武天皇のご意向によるもので、実際に行われたのは持統天皇4年(690年)のことだったと伝えられています。
以来、絶えることなく受け継がれてきました。
古いものを大切にしながらも、常に新しく生まれ変わり続ける
この考え方は「常若(とこわか)」と呼ばれ、日本人が大切にしてきた精神性のひとつだと言われています。
実は「20年に一度、突然行われる」わけではなかった
ここが今回、いちばんお伝えしたいことのひとつです。
式年遷宮というと「20年目のある日に、パッと社殿が新しくなる」というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。
けれども実際は、最初のお祭りから最後の「遷御(せんぎょ)」まで、実に8年もの歳月をかけて、数々の神事が積み重ねられていくのです。
つまり前回の遷宮が終わってから、およそ12年後にはもう次の準備が静かに始まっているということになります。
今回の第63回式年遷宮も、令和7年(2025年)5月2日、太鼓の音とともに「山口祭(やまぐちさい)」という最初のお祭りから幕を開けました。
2033年の完成に向けて、これから何年もかけて、少しずつ、少しずつ準備が進んでいきます。
一世一代の大イベントというより、「ずっと続いている大切な営み」なのだと知ると、遷宮という言葉の重みが少し変わって感じられないでしょうか。
ご神木はどこから来るの? 100年がかりの壮大な計画
社殿を新しく建てるには、当然たくさんの木材が必要です。
この御用材(ごようざい)にまつわるお話も、知ると胸が熱くなります。
現在、正殿に使われる木材は、長野県と岐阜県にまたがる「木曽(きそ)」の山から切り出されています。
けれど、木を伐り出す前には必ず、山の神様へ安全を祈るお祭りが行われます。
それが最初に行われる「山口祭」で、御杣山(みそまやま=木材を伐り出す山)は時代とともに移り変わってきましたが、山口祭そのものは今でも、伊勢神宮の敷地内にある神路山・高倉山のふもとで執り行われています。
そして、もうひとつ心に残るのが宮域林(神宮の森)の物語です。
大正12年(1923年)から、伊勢神宮では200年計画で森を育てる取り組みが続けられており、今回の遷宮では、その一部がようやく使われることになったということです。
100年前の人たちが、自分たちが生きている間には使われないとわかっていながら、木を植え育てた 。
その想いを引き継いで、今、第63回式年遷宮では、令和8年(2026年)に御木曳行事が行われています。
私たちの時代の遷宮が行われている。
そう考えると、一本の木にもずっしりとした重みを感じます。
真夜中に行われる神秘の「木本祭」
御用材にまつわるお祭りの中でも、とりわけ神秘的なのが「木本祭(このもとさい)」です。
正殿の床下に建てられる「心御柱(しんのみはしら)」という、特別な柱があります。
この柱に使う木を伐り出す前に、木の根元に宿る神様をお祀りするのが木本祭ですが、古くから神秘の儀式とされ、真夜中に行われてきました。
心御柱は、実際の社殿の中では目に見えない場所に建てられる、いわば「隠れた要」のような存在です。
多くの人の目に触れることのない、静かな夜の祈りによって支えられている
そう思うと、伊勢神宮という場所の奥深さを、あらためて感じずにはいられません。
そして、宮大工の技術も次の世代へ
なぜ「20年」なのか? 実は、はっきりした答えはない
ここまで読んでくださった方の中には、「そもそも、どうして20年なの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
実はこれ、専門家の間でもはっきりとした定説がないのです。
よく言われている説をいくつかご紹介します。
- 社殿が檜(ひのき)の素木造り・萱葺き屋根のため、耐久性の面から20年ほどが適切という説
- 宮大工など、社殿を建てる伝統技術を次の世代へ確実に受け継ぐために、20年という周期がちょうどよいという説
- 昔の法律で定められていた、お米を蒸して乾燥させた「糒(ほしいい)」という保存食の備蓄期限が20年だったことに由来するという説
このように諸説あるものの、はっきりとした答えは今も出ていないのだそうです。
長い歴史の中で受け継がれてきたことでも、「なぜ」の部分がすべて解明されているわけではない。
そんな謎めいた部分が残っているのも、伊勢神宮という場所の魅力のひとつなのかもしれません。
そして、宮大工の技術も次の世代へ
もう一つ、私が「なるほど」と思ったのが、式年遷宮が伝統技術を次の世代へ受け継ぐ場にもなっていることです。
伊勢神宮によると、遷宮の時期には約150人の宮大工が造営に関わり、遷宮のない時期にも30人弱が社殿の修繕や次の遷宮の準備を続けています。
20年に一度、同じような建物を造る。
それを繰り返すことで、昔から伝わる建築技術を実際の仕事として受け継いでいく。
これは、単に「古いものを保存する」のとは少し違います。
実際に造り続けることで、技術そのものを未来へ残していく。
式年遷宮には、そんな役割もあるのです。
「古いのに、新しい」伊勢神宮
伊勢神宮の式年遷宮を調べていて、私が一番心に残った言葉があります。
それが「常若(とこわか)」です。
「常に若々しい」という意味で、
古いものを大切にしながら、古いまま残すのではない。
新しく造り替えることで、昔からの形や技術、祈りを未来へつないでいく。
だから伊勢神宮は、
「最も古く、最も新しい」
神宮なのかもしれません。
これを知ってから伊勢神宮の社殿を見ると、少し違って見えてきそうですね。
また、私たちシニア世代においても、もう役目は終わった!ではなく、常に新しく変わっていこうという心構えが必要だなと思います。
それが高齢化社会に生きる者としての、心構えなのではないでしょうか。
常に「常若(とこわか)」の精神で!
一般の人が「新しい正殿のすぐそば」まで入れる、唯一の機会
式年遷宮の中でも、一般の参拝者が実際に体験できる特別な行事があります。
それが「御白石持行事(おしらいしもちぎょうじ)」です。
これは、新しく建てられた正殿の敷地に、参拝者ひとりひとりが白い石を敷き詰めていくという行事。
旧神領民の方々や、全国から集まった特別神領民の皆さんが参加し、遷御が終わった後は立ち入ることのできない正殿のすぐそばまで入れる、まさに一生に一度あるかないかの貴重な機会なのです。
次回は2033年に予定されています。
もし機会があれば、この特別な体験のために予定を立ててみるのも素敵かもしれません。
おわりに ・ 次にお伊勢参りをするときは
式年遷宮は、ただの「建て替え」ではありません。
100年前に植えられた木、真夜中に静かに祈る神職の方々、そして何年もかけて積み重ねられていく数々のお祭り。
そのひとつひとつに、目には見えない祈りと想いが込められています。
次にお伊勢参りをするときは、ぜひ社殿だけでなく、こうした舞台裏の物語にも思いを馳せてみてください。
同じ伊勢神宮が、きっと今までとは少し違って見えてくるはずです。
なお、令和8年(2026年)以降の詳しい祭典の日程は、前回の遷宮を参考にした予定として発表されているものもあります。
お出かけの際は、事前に伊勢神宮の公式サイトなどで最新の情報をご確認いただくと安心です。


